生活の中に生きる自転車
「ママチャリ文化」 その4 ママチャリの発展(平成年代)

  昭和40年代に登場したミニサイクルは昭和50〜60年代を通じて女性用軽快車と機能・形状にほとんど差がなくなり、「30代以降の女性が乗っても安定走行ができ、かつ主として買い物に利用するための短距離用のダブルループ形やL形・U形の形式の24〜26インチ自転車」であるママチャリが完成しました。さらに、良品ながら低価格の自転車と高付加価値を付けた自転車の2極化が生じ始めました。
年号が昭和から平成に替わるとともに、「ミニサイクル」という言葉も一般的にはほとんど使われなくなり、「軽快車」「シティサイクル」などの言葉が主となってきましたが、世俗的には「ママチャリ」が最もよく使われる言葉になりました。その中で、これまでにない付加価値のついた自転車が登場し、これによって新たな利用目的・利用者の拡大が起こりました。

[幼児乗せ]
前カゴが普及を始めた昭和30年代にも幼児を乗せるための座席がオプションとして発売されていました。ハンドルを間に挟んで、前にカゴ、後ろに座席を装着していましたが、装着方法は自転車のフレームによってダイヤモンド形フレーム装着用(写真1・2)とループ形フレーム装着用(写真3)の2種類がありました。ダイヤモンド形ではトップチューブに固定、ループ形ではハンドルバーに掛けて固定します。

       
 
写真1
 
写真2
 
写真3
 

素材は金属製が主ですが、籐製もありました(写真4、5)。

 
 
 
 
写真4
 
写真5
 

 前カゴをハンドルの前に、幼児用座席をハンドルの後ろに取りつける方法は昭和62年に丸石自転車が「ふらっかーず」を発売するまで変わりませんでした。「ふらっかーず」は前カゴの位置をハンドルの回転軸上に取り付ける方式を採用したのです(写真6)。ハンドルを車体に取り付けるためのステムと呼ばれる装置をなくし、アップハンドルを直接車体に取り付け、その取り付け部分に前カゴを置くことで、前カゴの重心の位置を下げたのです。この結果、ハンドル操作を行っても重心の移動が非常に小さくなり、たくさんの荷物を積んでも従来の前カゴの設置方法よりもふらつかないことになります。

   

写真6


前カゴをハンドルに挟むようにして、底面の中心が車体とハンドルを取り付ける位置にくるよ うに設置したことで、ふらつきが少なくなった
(昭和63年発行の丸石自転車のカタログより)

 
 発売当初から幼児乗せ兼用前カゴ(写真7)もオプションとして発売されたのですが、広告のキャッチフレーズは荷物を「たくさん積んでもふらつかない」ことでしたので、幼児用座席というよりは前カゴに足を通す穴を空け、足置きをつけただけのものでした。このため、このときはまだ従来からの自転車の利用形態の一つである買物のためという目的に変化はありませんでした。
表3 昭和60年発行のブリヂストンサイクルのカタログにおける車種分類

シテイサイクル

ホームサイクル

13種類

13種類

軽快車

ミニサイクル

ミニサイクル

軽快車

ミニサイクル

ミニサイクル

26インチ

24インチ

22インチ

26インチ

24インチ

22インチ

6種類

8種類

1種類

6種類

13種類

3種類

   

写真7

ふたを開けると足を通すことができる
(昭和63年発行の丸石自転車のカタログより)

 

 しかし、その形状とカゴの大きさから販売実績は丸石自転車が当初期待していたほどは伸びませんでした。しかし、乗せる重さに対する自転車の安定性は優れており、この位置に幼児用座席を取り付ければペダルをこぐときも足が幼児用座席に当ることもなく、お母さんでもスマートに運転することができます。こうした理由から、荷物を乗せるのではなく幼児を乗せるための自転車に方向転換し、足置きのためにカゴの底を穴開け型から全開型へ変更し平成3年4月「ベビーサイクル ふらっかーず」として販売を始めました(写真8、9)。ここで初めて幼児乗せ用自転車が誕生したのです。同年11月からある雑誌とタイアップして商品開発を進め、同4年には後輪26インチに対して前輪を24インチにすることで幼児用座席の高さを低くして幼児を乗せやすくする工夫がほどこされるようになりました。

 

写真8

幼児乗せ用として最初に売り出した自転車
左上にベビーサイクルの文字がある

(平成3年発行の丸石自転車のカタログより)
 

写真8

「ふらっかーず」では幼児用座席の重心(図中の矢印)が前輪の中心にくる
 

座席も表1のように改良が加えられ、機能性・安全性が向上していった他、車体型式もダブルループ形→スタッガード形→1本フレーム形→低床1本フレーム形へと幼児乗せ用自転車として乗りやすくなっていきました。

表1 幼児用座席の特徴の変化

 

大きさ(mm)

材質

シートベルト

特徴

 

前後

左右

高さ

 

 

 

平成3年

41

32

 

金属

2点式

 

平成6年

44

35

27

樹脂

2点式

 

平成7年

44

35

27

樹脂

4点式

 

平成8年

43

33.5

25.5

樹脂

4点式

背中の後に荷物を入れるポケット付   座席内のシートが前後に移動できる

 その後ハンドル中央部に幼児用座席を設定した幼児乗せ専用自転車が平成9年ブリヂストンサイクルから、同10年ナショナル自転車・ヤマハから発売されるなど各社が次々に発売を始めました。

[電動アシスト自転車]

 人間がペダルを踏む力と、その力に応じた電動モーターからの補助動力を融合させて後輪を駆動させる能力をもった電動アシスト自転車がヤマハから平成6年3月に世界で最初の、”Power Assist System”の略称「PAS」という名称で発売されました(写真10)。前カゴ付のスタッガード形で内装3段変速装置を組み込んだこの自転車は、重量が通常のシティサイクルの2倍近い31kgもあり、また充電時間10時間で走行距離が20km(現在は平均的には充電時間2時間で40km前後)にすぎないにも関わらず、1年間で約3万台が販売されました。続いてホンダが平成7年2月から同様のシステムを持った「RACOON」を発売しましたが、「PAS」よりも重さが28kgと弱冠軽くなった他は、充電時間・走行距離も価格も変りませんでした。                   
その後、前カゴ付のシティサイクル型を各社が改良を重ねながら次々に新機種を発売していきました(表2)。3年間で重量は約5kg減少して27〜28kg、走行距離は充電時間2〜4時間で30km前後になるなど各種性能が向上していきました。また車輪径が24〜20インチの小型車種も増えたほか、価格も充電器込みで10万円を下回る機種も多くなり、購入しやすくなったこともあり、平成9年の販売台数は初年度の平成7年の8倍、前年の2.4倍に急増しました。

写真10 平成6年3月に発売 された最初の電動アシスト自転車「PAS」
(自転車文化センター所蔵)

表2 平成9年までに発売された電動アシスト自転車の前カゴ付シティサイクル型のデータ

 

6年4月

7年2月

7年12月

8年1月

8年4月

8年5月

8年9月

8年10月

 

ヤマハ 

ホンダ 

ホンダ 

ヤマハ 

スズキ 

ナショナル 

スリーエム 

ナショナル 

 

パス

ラクーン

ラクーンDX

コンパクト

ラブ26

陽のあたる坂道

楽チャリ 24

陽のあたる坂道24

重量(kg)

31

28

29

28

31

26.5

22

28.2

走行距離(km)

20

20

20

20

25

25

20

25

定格出力(W)

235

220

220

235

220

180

100

180

充電時間(時間)

10

10

3.5

4.5

3

3

2.5

3

タイヤサイズ(吋)

26

26

24

20

26

26

24

24

変速方式

内装3段

内装3段

内装3段

内装3段

内装3段

内装3段

なし

内装3段

価格(充電器込み)

149000

148000

148000

138000

136000

147000

85000

147000

 

8年10月

9年1月

9年2月

9年2月

9年4月

9年4月

9年5月

9年6月

 

サンヨー 

ヤマハ 

ホンダ 

ホンダ 

丸石 

スズキ 

ナショナル 

スリーエム 

 

エナクル

ニューパス

ラクーン24UX−1 

ラクーン20RX−3

さんぽ路

ラブ20

陽のあたる坂道20

楽チャリ 20

重量(kg)

28

27

27

28

27.5

30

27.6

21.5

走行距離(km)

45

30

15

23

25

31

28

17

定格出力(W)

220

235

220

220

120

220

180

100

充電時間(時間)

3.5

3.5

2

3.5

3

3

3

2.5

タイヤサイズ(吋)

26

26

24

20

24

20

20

20

変速方式

なし

内装3段

なし

内装3段

内装3段

内装3段

内装3段

なし

価格(充電器込み)

115000

99800

89500

99500

99800

99500

108000

85000

 しかし、販売台数は平成9年の230万台をピークにその後減少が続きました(図1)。購入者を性別・年代別にみると(表3)、40代以降が全体の85%で、30代未満は男女併せても5%にしかすぎません。

表3 平成10年6月調査の電動アシスト自転車の年代別・性別購入割合(%)

 

全体

〜29才

30〜39才

40〜49才

50〜59才

60才〜

53.9

3.5

5.9

10.9

18.8

14.8

46.1

1.8

3.8

7.6

14.3

18.6

図1 電動アシスト自転車の販売台数の推移

 国内における生産台数・生産金額がシティサイクルだけではなく、全車種を含む全体においても減少傾向にありました(図2)。その中で電動アシスト自転車は生産台数は全体の5%にも満たない中、生産金額は15%を占めていることから(図3)、30代未満の購入者を広げることが全体の生産金額・台数を増加させるカギとなるのです。そこで20代の主婦層のための幼児乗せ用の開発が始まりました。

     
 
図2 国内における生産台数・生産金額の推移
 

図3 電動アシスト車が占める生産台数・生産金額の割合

 
[幼児乗せ用電動アシスト自転車]
ハンドル中央部に幼児用座席が取り付けられる自転車が丸石自転車によって発売されてから10年後の平成9年にブリヂストンサイクルが同じ型式の幼児乗せ用の発売を始めました。また丸石自転車と電動アシストのナショナル自転車が協同開発してハンドル中央部に幼児用座席を取り付けた電動アシスト自転車を平成10年に初めて発売しました。大手完成車メーカーが新機種開発のために技術提携した例がこれまでほとんどなく、そうした意味で注目する点でもあります。その後各社より同様のアシスト車が次々に発売されました(表4)。
表4 平成10年に発売された幼児用座席取り付け電動アシスト自転車のデータ

 

10年1月

10年1月

10年7月

10年7月

10年7月

 

ナショナル 

丸石 

丸石 

ヤマハ 

ブリヂストン 

 

陽のあたる坂道マミー

ふらっかーずコモアシスト

ペーブメント

パスリトルモア

アシスタLF

重量(kg)

31.8

31.5

28.5

31

31

走行距離(km)

33

30

30

29

29

定格出力(W)

-

180

 

235

235

充電時間(時間)

3

3

2.8

2.8

2.8

タイヤサイズ(吋)

22-24

24-26

24-26

24-26

24-26

変速方式

内装3段

内装3段

内装3段

内装3段

内装3段

価格(充電器込み)

138000

138000

121800

119800

119800

 こうした過程を経て平成20年12月には道路交通法施行規則の改正が行われ、時速10km未満までは足の力の2倍までのアシストを加えること(10km以上からアシスト力が逓減し24km以上で0となる)が出来るようになりました(改正前までは時速15km未満までは足の力と同じアシストを加え、15km以上からアシスト力が逓減し24km以上で0となる)。この結果、
@安定したスムーズな発進
A坂を登るときの発進と安定走行が容易
B体力弱者の走行を容易にし、疲労を軽減
C高アシストを低速時に限定しているので、速度の出しすぎを抑制
という特徴が強化されました。さらに幼児乗せ用以外のスポーツ車タイプなど車種やデザインが豊富になったことと併せ、販売価格・免許制度・ガソリン等のランニングコスト等を50ccバイクと比較し、その優位性を考慮した結果、平成20年、国内出荷台数が50ccバイクの29万5000台に対して電動アシスト自転車はそれを上回る31万5000台になりました。
電動アシスト自転車は高年齢層や子育て層のみならず、荷物運搬用として、通勤通学用として、
レジャー用として利用範囲がますます広がっています。  
[幼児3人乗せ自転車]
ハンドル中央部に幼児用座席が取り付けられる自転車が普及してくると、後輪の荷台部分にも幼児用座席を取り付けて3人乗りが行われるようになってきました。しかし、道路交通法では6才未満の幼児1人に限り乗せることしか認められておらず、安全性からも問題が指摘されていましたが、幼児2人を前後に乗せて走る保護者が増加していました。平成20年における警察庁調査では3000人のアンケートで「過去1年間に2人以上同乗させた経験がある」と答えた人が13.3%にも達していました。こうした状況の中、平成21年7月1日より都道府県の道路交通規則が改正され、16才以上の運転手が下記の基準を満たした自転車に限り6才未満の幼児を2人乗せることができるようになりました。
自転車のサイズ
@全幅(巾)900mm以下  A全長(横)2300mm以下  B後輪座席に幼児を座ら
せたとき、幼児の頭とサドルの高低差が550mm以下  C前輪の幼児用座席の後部とサ
ドルとの距離が125mm以上  Dペダルの位置が最も前にきたときと前輪との最接近
距離が150mm以上
走行性能と駐輪安定性
@自転車の車体および幼児用座席が取り付けられる部分の剛性の確保について
※リヤキャリア剛性:クラス25に適合(側方静加重:15mm以下)
※ハンドル剛性:250N/rad(約25.5kg)以上の加重を加え、たわみが10
mm以下
A駐輪時の転倒防止のための安全性の確保について
※ハンドルストッパー:作動状態で5°傾斜させたとき、自転車が転倒しないこと
B発進時の安定性の確保について
※ギヤ比距離が4.3mm以下または4.3mm以下に調整できる変速装置が付いている
ことまたは電動アシスト自転車
幼児2人を乗せるからにはより一層、安全で安定した走行のできる自転車としてこの基準を満たした自転車の利用が望まれます。平成22年4月現在12社28商品が販売されていますが、価格が一般のシティサイクルと比べると高いということと、前記基準を満たしていない自転車での幼児2人を含む3人乗りでも警察庁の当面の方針として原則「指導・警告」等にとどめる方針ということから、普及が遅れています。このため、自治体によっては購入に当って助成金を出すところや、レンタルを行っているところもあり、今後の普及が待たれるところです。

[これからのママチャリの役割り]
かつて自転車は一部の人間のみが利用することができ、その利用目的も狭いものでした。しかし、ママチャリが誕生してから進化していく過程で、性別・年令に関係なく誰もが簡単に乗れるようになり、利用目的も広がり、日常生活の中で欠かすことの出来ない存在になってきました。しかも形状・性能は現在でもさらに進化を続け、利用目的の拡大化や利用者層のより一層の拡大化、例えば身体機能に不自由な人でも利用できるなど、ますますその役割りは大きくなっています。その一方で交通ルールの認識不足等が原因による自転車に関係した交通事故発生の割合の増加という問題も重大視されています。世界に誇ることのできるママチャリの利便性の教授とそれを継続させるための義務努力の継続がこれまで以上に望まれます。  

 

[参考文献]
1)丸石自転車 各種カタログ
2)ブリヂストンサイクル 各種カタログ
3)サイクルビジネス 第7巻第5号・第7号 1997年 グローバル
4)サイクルビジネス 第18巻第5号 2008年 グローバル
5)ニューサイクル 1997年6月号 1997年 ブリヂストンサイクル
6)電動アシスト自転車のすべて 1997年 インタープレス
7)日本と世界の電動自転車 1998年 インタープレス
8)自協会ニュース 1994年〜2002年 自転車協会
9)サイクルプレスジャバン 第679号〜751号 1998年〜2003年 インタープレス
10)サイクルプレスジャバン 第827号 2009年 インタープレス

         
谷田貝一男
  昭和30年代   昭和40年代   昭和50〜60年代   ママチャリ文化表紙