生活の中に生きる自転車
「ママチャリ文化」 その1 ママチャリ誕生前(昭和30年代)

 まずは軽快車・シティ車とママチャリの違いを検証していくことから始めます。シティ車という定義はJISで次のように定められています。
主に日常の交通手段及びレジャー用に用いる短中距離、低中速走行用自転車
JISに掲載されている自転車の形式は図1の通りです。この中からシティ車に該当するものを探し出すとダイヤモンド形以外はすべてが当てはまります。

  これに対してママチャリという定義はJISにも自転車関係の公式なものにも掲載されていません。ではシティ車とママチャリが同義語であるのかということです。図1の形式を見てママチャリはどれだと思うかと尋ねたとすると、大半の方はダブルループ形かL形・U形を指すでしょう。つまり、シティ車とママチャリは異なるものであるという前提でこれから話を進めていくことにします。そこで、最初にママチャリと呼ばれる自転車の定義を行う必要があります。
図1 JISに掲載されているフレームの形状の例
 

[ママチャリの定義を考える]            
形式別に利用する人を見てみると、スタッガード形を中心にパラレル形、ミキスト形を10~20代の人たちが利用している姿は目にしますが、特に30代以降の女性が利用している姿はあまり見かけません。これに対してダブルループ形やL形・U形は年代を問わず利用されています。また、搭載されているカゴの位置がスタッガード形等は前のみで後輪には荷台がないものが多いのに対して、ダブルループ形等は前だけではなく後輪に荷台が設置され、そこにもカゴを搭載しているものが多く、近年ではカゴの代わりに幼児用のイスを搭載しているものも増えています。スーパーの駐輪場に停めてある自転車のほとんどがダブルループ形やL形・U形ですが、最近流行の自転車通勤やちょっとした距離を走って楽しむツーリング等には利用されていません。
こうした利用する人たち、利用目的、自転車の形式を考慮に入れてママチャリを以下のように私的に定義してみました。

30代以降の女性が乗っても安定走行ができ、かつ主として買い物に利用するための短距離用のダブルループ形やL形・U形の形式の24~26インチ自転車で、幼児を1人~2人乗せることができる自転車を含む

 またママチャリの自転車としての特徴は次の通りです。
フレームはダブルループ形・L形・U形
ハンドルはアップ形(図2)
ホィールベースが他車種より長い 
前かごが装着されている※
リヤキャリヤ(後荷台)が装着されている※
後ブレーキはバンドブレーキ(図3)
タイヤはHE                
スタンドは両立スタンドまたはそれに順ずる形(図4)
チェーンケースは全ケース   ※幼児用シートになっている場合もある 

      図2
図3
図4
 

「ママチャリ誕生以前 昭和30年代初頭における女性を取り巻く状況」
写真1や写真2のように昭和20年代までの女性用自転車は重心が高く、重さも22~23キロと重く、現代のママチャリとは全く違うものでした。
このため、昭和31年における女性の自転車に乗ることのできる割合は10代後半で75%、20代前半で68%を示していますが、年代が上昇するに伴ってその割合は低下し、40代では男性の95%に対して女性は18%に過ぎなくなっていました(表1)。さらに、自転車に乗れても実際に利用している女性は男性の半分にも満たない25%で、主婦は20%に留まっています。しかし、そのうちの55~85%、主婦の70~80%が買い物用として利用しています。また、自転車を持っている世帯の割合は50~80%を示しているのに対して、その中における女性用車の所有率は最高でも20%を越える地域はなく、全国平均で8.4%ですが、自転車保有世帯の割合が高い愛知や広島などの地域は女性用車の割合が他の地域よりも高い傾向を示していました(表2)。保有する自転車の車種は実用車、軽快車は地域差がないため、女性用車の保有する割合の差が保有世帯数の割合を高め、30代以降の女性の乗れる割合を高めているといえます。

 
 
 
 
写真1 冨士覇王号 (昭和5年頃)
 
写真2 大利根号 (昭和24年頃)
 
表1 昭和31年度における性別年代別自転車の乗れ る割合

 

岩手

東京

愛知

京都

広島

福岡

 

15~19才

78.3

96.6

68.6

100

84.2

90.9

74.0

94.5

86.2

97.5

61.5

100

20~24才

61.8

96.2

70.3

97.1

82.8

97.6

72.1

95.8

78.3

94.4

41.5

98.1

25~29才

49.3

93.3

56.1

96.8

80.8

97.7

56.6

100

55.6

98.1

29.3

97.6

30~34才

39.1

95.2

49.5

95.2

75.0

100

34.6

93.8

47.2

97.8

32.0

98.5

35~39才

23.5

85.7

40.4

100

62.6

98.0

39.2

93.0

42.4

94.3

14.1

93.9

40~49才

8.5

91.4

21.1

96.5

40.5

97.3

5.3

94.3

21.8

94.4

11.7

96.8

50才以上

1.2

57.5

7.4

84.6

16.1

84.9

6.6

75.2

42.0

90.8

7.0

80.0

28.7

87.3

45.1

95.0

57.4

94.0

37.7

91.3

50.1

97.0

23.2

93.5

表2 昭和31年における自転車の持っている世帯の割合

 

岩手

東京

愛知

京都

広島

福岡

持っている割合(%)

63.2

53.3

81.7

69.9

81.7

46.4

女性用車の所有率(%)

3.6

8.0

17.3

5.6

11.0

4.6

実用車の所有率(%)

90.3

75.4

72.3

74.2

80.5

84.6

軽快車の所有率(%)

2.4

5.7

2.0

5.0

1.3

3.1

スポーツ車の所有率(%)

0.1

0.7

0.3

0.5

0.3

-

 
「女性向け自転車販売のきっかけと販売方針」
昭和20年代後半から自転車業界は厳しい状況に追い込まれていきました。すなわち、購入目的が新規需要から代替需要に移行、輸出台数が10万台以上減少、消費者物価指数の上昇にも関わらず小売価格はほぼ一定で推移、エンジン付きバイクとの生産台数比率が約2分の1まで縮められてきたなどマイナス要因が重なり、さらに昭和29年後半から32年前半にかけて起きた神武景気によって鉄鋼資材が高騰したにも関わらず価格の引き上げができず、コスト高の製品安という現象が生じ、販売数量は増大したが、利益があげられない状況となっていました。
したがって、製造会社はこうした経営環境を打開するための手段の1つとして、女性の中でも乗ることができる割合が高いにも関わらず利用率の低い20代の主婦を対象にした自転車の製造販売で新たな層の開発を行い、全体の保有台数の底上げをめざしました。そのための方針は自転車を花嫁道具(写真3)として購入することを勧め、その結果として買物に便利でしかも美容と健康に役立つということをアピールし、昭和31年から実践を開始しました(写真4)。
まずは価格設定です。昭和31年における新規購入が可能な人の割合は25~40%で、この中で男性が主として実用車、軽快車を希望しているのに対して、女性の55%から76%までが女性用車を希望していました。ところが女性はほしくても買えない人が全体で60~75%もあり、買える人の割合を大きく上回り、買えない理由として価格が高いという人がほしいという人の30~40%を占めていました。このため、女性向けは他の車種よりも概ね2000~3000円低い価格に設定していました。
 
 
 
  写真3 製造会社や小売店の宣伝効果もあり、昭和37年の調査によると54%の花嫁が花嫁道具の中に自転車を入れ、その位置は和洋箪笥・鏡台・下駄箱・洗濯機・掃除機・冷蔵庫に次ぐものになりました。   写真4 昭和31年に山口自転車から発売されたスマートレディです。販売時には前カゴが付いていました。定価13500円は当時としては低価格で、女性の自転車購買層を拡大させました。  
 
「昭和30年代における軽快車としての形式の特徴」
20代後半から30代の女性に乗りやすく使いやすい自転車の開発として、フレームはダイヤモンド型ではなく、また現在のママチャリの中心となっているダブルループ形・L形・U形とも異なるループ型(図1)を取り入れました。しかし、車輪径はほとんどが26インチで、24インチは稀でした。ハンドルは重心を低くするためにダイヤモンド形で主に使われているフラットハンドルではなく、アップハンドル(図2)を採用し、重さも4キロ前後の軽量化を実現させています。
また、購買欲を促すために、昭和20年代までのような単一デザインの車体で黒を中心とした寒色系の単色(写真1、写真2)から、車体デザインと色彩の多様化(写真5)(表3)を持たせる工夫を各社がこらすようになってきました。
 
 
 
 
ナショナル ビューティ(昭和33年)
 
丸石サンデー(昭和37年)
 
 
 
 
 
冨士フラウ号(昭和33年)
 
川村フラワー号(昭和38年)
 
写真5 車体デザインの多様化としてループ形の変形
表3 昭和30年代におけるフレームの形体別色数の推移(台数)

昭和

30年

31年

32年

33年

34年

35年

36年

37年

38年

39年

ダイヤモンド型 1色

13

 

 

13

8

7

8

8

8

6

ダイヤモンド型 2色

2

 

 

1

1

2

2

4

4

3

ループ・スタッガード型 1色

5

1

 

3

1

5

1

4

1

2

ループ・スタッガード型 2色

1

 

1

3

5

7

4

6

7

7

 
 昭和31年における女性の55~85%、主婦の70~80%が買い物用として利用しているという状況から、買い物用として前カゴの設置が昭和30年代に普及しました(写真6、写真7、写真8)昭和30年頃は大半が無設置でしたが、昭和32~33年頃からオプションで後から設置する自転車が増加し、昭和30年代後半には最初から設置して販売される場合も増えてきました。また、形状の改良も行われました。
前カゴの形状
最初から設置して販売するとき
30年代前半  本体に取り付けたキャリアに取り外しが可能なビニールバッグやビニールの網カゴの装着
30年代後半  車体にカゴ枠を取り付け、その中にバッグを入れる
オプション用
ビニールの網カゴをハンドルバーに直接装着するものが多数(写真4)
写真6 オプション用の前カゴ
 
 
 
  写真7 3台とも車体はスタッガード形の男女兼用車です。両端の2台の自転車に付けられている前カゴはいずれも後付けのオプション形です。   写真8 前カゴが付いていない車体がループ形の女性用車では、買い物やカゴはハンドルにけて乗っていました。  
 
「昭和30年代後半における軽快車の利用状況」
この結果、女性用車は売上台数全体並びに購入台数全体の中での占める割合が昭和30年の14%から毎年上昇し、その増加率は全車種を含めた保有台数の増加率を上回り、昭和39年にはほぼ50%になりました(表4)(図5)。
表4 昭和30年代における女性用自転車の占有率

昭和

30年

31年

32年

33年

34年

35年

36年

37年

38年

39年

売上台数からの割合(%)

14.1

16.3

31.3

35.5

38.1

 

39.3

39.7

43.1

49.8

※※

※※

 

※※

※※

※※

※※

購入台数からの割合(%)

 

 

 

32.0

48.7

40.6

53.4

49.9

55.7

56.6

国内総保有台数(百万)台

13.9

15.6

16.0

16.8

18.1

19.5

20.7

21.9

22.9

23.7

※実用車のみ 軽快車は男女の区別なしのため  ※※実用車と軽快車の合計
図5 昭和30年代における女性用自転車の占有率と保有台数の変化のようす
 
「軽快車の増加と社会との関わり」
販売台数の増加は価格の上昇を抑えることができますので、1台あたりの生産者価格を昭和30年代の10年間は10000円前後でほぼ同一水準を保つことができました。また国民可処分所得が昭和30年代は毎年上昇し、昭和39年には国民一人当たり約26000円で昭和30年の約3倍になっていたことも価格面で購入しやすい状況を迎え、昭和30年代初頭における「価格が高いから購入できない」という理由がほぼ消え去りました。
現代では、性別・年代を問わず誰もが買い物に自転車を利用しています。昭和31年においても自転車を利用する女性の55~85%、主婦の70~80%が買い物用として利用していましたが、自転車に乗れる30代女性が42%で半分にも満たず、誰もが自転車を利用して買い物に行くという状況ではありませんでした。しかし、昭和30年代末には30代女性の70%以上が乗れるようになりましたので、この昭和30年代を通じてほぼ30代女性までが自転車を使って買い物に行くというスタイルが定着していったといえます(写真9)。
また乗りやすく使いやすい自転車の開発はその乗車対象者を女性から中高校生や男性まで広げ、その結果として昭和34年からフレームが主として女性用のループ形から性別を問わないスタッガード形に移行していき(図6)、昭和39年には女性用車(ループ形)あるいは男女兼用車(スタッガード形)に乗る男性が65%に達しました。
このことは、生活の中で利用される自転車の形が変化を始めたともいえます。昭和30年代前半までは一家に一台、主に男性向けのダイヤモンド形自転車があり、これを子どもはいわゆる三角乗りで、女性も無理して乗っていたという状況から、昭和30年代を通じて10代の中高校生でも30代の女性でも40代の男性でもカタッガード形やループ形といった楽に乗れる形の自転車を利用するという状況へ移行していったといえます。
図6 昭和30年代における女性用車の車体形式別発売台数の推移
 
 
  写真9 車体がスタッガード形をした男女兼用車(手前の自転車)と、ループ形をした女性用車(中央の自転車)があり、昭和30年代後半になると男女兼用車の台数の方が多くなりました。  
 

「現在のママチャリ並びに利用者との違い」
昭和30年代における軽快車の形式はスタッガード形とループ形で、L形が稀にあるだけでダブルループ形はほとんどありませんでした。また女性の利用年代は10年ほどの経過を考慮に入れても30~40代の利用率は上昇しているものの、50代以降の利用率は30%以下に留まっており、現在の利用状況にはまだ達していませんでした。

 
(参考文献)
1)自協会ニュース 第95号 自転車協会 2009年
2)JIS 自転車・車いす編 自転車産業振興協会 2000年
3)昭和30年代における女性の自転車乗車率の上昇原因 谷田貝一男 自転車文化センター研究報告書第2号 2009年
  谷田貝一男
  昭和40年代   昭和50~60年代   平成年代   ママチャリ文化表紙