生活の中に生きる自転車
「ママチャリ文化」 その3 ママチャリの完成(昭和50〜60年代)

 昭和48年10月に勃発した第4次中東戦争を契機にして起こった第1次オイルショックが日本における高度経済成長の終わりを告げて転換期に入り、続く54年の第2次オイルショック以降安定成長経済へと向かっていきました。自転車も高度経済成長とともにミニサイクルが急増しましたが、第1次オイルショックの影響ですべての車種で急激な生産の減少を示し、その後昭和53年まで低迷を続けました。

[女性用軽快車とミニサイクルの統合 ママチャリの完成]
昭和48年から女性用軽快車とミニサイクルの融合が始まりましたが、第1次オイルショックによる生産台数の減少がその融合に拍車をかけました。両自転車の機能・形状にほとんど差がなくなり、車輪径の違いによって24インチ以下はミニサイクル、26インチは軽快車と呼び方を変えるだけの状態になっていきましたが、昭和52年に日米富士自転車が両者の中間となる25インチをタウンサイクルと称して発売を始めました(写真1、表1)。

       
 

富士ベガ24(24インチ)

 

富士プランタン (25インチ)

 

富士ハイレディリL (26インチ)

 
写真1 昭和52年に日米富士自転車から発売された各インチの軽快車・ミニサイクル
表1 昭和52年に日米富士自転車から発売された各インチの軽快車・ミニサイクルの対比

 

車種名

分類

定価

フレーム

ハンドル

前ブレーキ

後ブレーキ

ブレーキワイヤ

サドル調整ピン

ドレスガード

24インチ

富士ベガ24

ミニサイクル

36800円

ダブルループ

アップ

サイドプルキャリパ

バンドブレーキ

ワイヤ

あり

あり

25インチ

富士プランタン

タウンサイクル

37500円

ダブルループ

アップ

サイドプルキャリパ

バンドブレーキ

ワイヤ

あり

あり

26インチ

富士ハイレディL

軽快車

37800円

ループ

セミアップ

リムブレーキ

バンドブレーキ

ロッド

なし

あり

 

車種名

スタンド

後荷台

前カゴ

ギヤクランク

ハブ

ライト

24インチ

富士ベガ24

ライン状

ライン状 前後長・巾狭

ビニールバッグ付

44T

プレス 前後36穴 

6V3W2灯

25インチ

富士プランタン

ライン状

ライン状 前後長・巾狭

ビニールバッグ付

44T

プレス 前後36穴 

6V3W1灯

26インチ

富士ハイレディL

プレス状

プレス状 前後狭・巾広

ビニールバッグ付

44T

プレス 前後36穴 

6V3W1灯

 さらに昭和54年にブリヂストンサイクルから発売された内装2段変速付Love Loveシリーズでは26インチも含めてカラフルミニサイクルと称しました。26インチにサドル調整ピンが装着されていない他はブレーキワイヤやスタンドなども統一され、軽快車とミニサイクルの区別が見かけ上ほとんどなくなってきました(写真2 表2)。ここでこのシリーズの第1回で定義したママチャリ「30代以降の女性が乗っても安定走行ができ、かつ主として買い物に利用するための短距離用のダブルループ形やL形・U形の形式の24〜26インチ自転車」が完成したといえます。
       
 

ブリヂストンLove Love222(22インチ)

 

ブリヂストンLove Love242 (24インチ)

 

ブリヂストンLove Love262(26インチ)

 
写真2 昭和54年にブリヂストンから発売された各インチのミニサイクル
表2 昭和54年にブリヂストンから発売された各インチのミニサイクルの対比

 

車種名

分類

定価

フレーム

サドル調整ピン

ギヤクランク

重量

22インチ

ブリヂストンLove Love222

カラフルミニサイクル

35800円

シングルループ

あり

32T

19.5kg

24インチ

ブリヂストンLove Love242

カラフルミニサイクル

36800円

ダブルループ

あり

31T

19kg

26インチ

ブリヂストンLove Love262

カラフルミニサイクル

39800円

ダブルループ

なし

31T

21kg

 昭和60年のブリヂストンサイクルのカタログでは利用目的に合わせた自転車の差別化を前面に出すために、シティサイクルとホームサイクルに分け、さらにそれぞれの中で車輪径の違いでミニサイクルと軽快車に分けています。シティサイクルは主にポタリング等レジャー用でスタッガードの24〜26インチが中心、ホームサイクルは主に買物用でダブルループの24インチが中心です(表3)。
表3 昭和60年発行のブリヂストンサイクルのカタログにおける車種分類

シテイサイクル

ホームサイクル

13種類

13種類

軽快車

ミニサイクル

ミニサイクル

軽快車

ミニサイクル

ミニサイクル

26インチ

24インチ

22インチ

26インチ

24インチ

22インチ

6種類

8種類

1種類

6種類

13種類

3種類

 こうした実情を反映して、JISの軽快車とミニサイクルの定義が随時訂正されていきました。
昭和42年から昭和61年までの定義は次の通りです。
昭和42年3月発行(ミニサイクルの定義はない)
軽快車:通勤、通学、買物などに使用することを主目的として設計された車で、普通、車輪 の径の呼び26、常用速度14〜16km/h、標準重量19kg、積載量10〜15kg程度のも のをいう。
 
昭和45年9月発行(ミニサイクルは特殊形自転車に入っている)
軽快車:一般用自転車:車輪径によって18以下・18をこえ22以下のもの・22をこえ25以下のもの・25をこえるものの4種に分け、それぞれについて標準常用速度(km/h)・標準重量(kg)・標準積載量(kg)・標準リム型式を定めている
ミニサイクル:特殊形自転車:H形フレーム、フレームサイズの呼び410、車輪の呼び20×1.75HE、MH410−20×1.75HE
 
昭和50年2月発行(ミニサイクルが一般用自転車に入った)
軽快車:一般用自転車:最大シート高さによって330mmをこえ470mm以下のもの・470mmをこえ500mm以下のもの・500mmをこえるものの3種に分け、それぞれについて標準常用速度(km/h)・標準重量(kg)・標準積載量(kg)・標準リム型式を定めている
ミニサイクル:一般用自転車:最大シート高さ380mmをこえ、車輪の径の呼び22以下で、シートポストおよびハンドルポストの調整範囲が、それぞれ100mm以上お よび35mm以上とする
 
昭和53年6月発行(軽快車とミニサイクルの区別がほとんどなくなった)
軽快車:一般用自転車:最大シート高さによって330mmをこえ470mm以下のもの・470mmをこえ500mm以下のもの・500mmをこえるものの3種に分け、それぞれについて適応乗員体重(kg)・標準常用速度(km/h)・標準重量(kg)・標準積載量(kg)・標準リム型式を定めている
ミニサイクル:一般用自転車:軽快車と同じ最大シート高さによって330mmをこえ470mm以下のもの・470mmをこえ500mm以下のもの・500mmをこえるものの3種に分け、それぞれについて適応乗員体重(kg)・標準常用速度(km/h)・標準重量(kg)・標準積載量(kg)・標準リム型式を定めている
軽快車とミニサイクルとで異なるのは標準常用速度(軽快車:9〜14 ミニサイクル:6〜8)、標準積載量(軽快車:5〜15 ミニサイクル:5〜10)、標準リム型式(軽快車:WO−3 ミニサイクル:HE)である。
 
昭和57年1月(ミニサイクルが軽快車の前に登場 利用目的で区別している)
ミニサイクル:買物など近距離乗用を主目的として設計したもの(変速装置を備えるもの及び車体部が折りたたみ又は分割できるものを含む)で、大人用(サドル地上高さの最大750mmを超えるもの)と子供用(サドル地上高さの最大635を超え750mm以下)とに区別する。
軽快車:通勤、通学、買物などに使用することを主目的として設計したもの(変速装置を備えるもの及び車体部が折りたたみ又は分割できるものを含む)で、大人用(サドル地上高さの最大750mmを超えるもの)と子供用(サドル地上高さの最大635を超え750mm以下)とに区別する。
 
昭和61年6月
昭和57年1月と同じ

[自転車利用の目的]
昭和56年における調査では新規購入目的として女性の60.0%が買物、18.6%が通勤通学のためであり、購入後も76.6%が買物に、24.4%が通勤通学に利用しています。男性は新規購入目的として買物18.3%通勤通学30.9%、購入後は買物38.8%通勤通学38.4%です。女性にとって自転車は買物のための必需品なのです。したがってどの車種を選ぶのか、その基準材料を示したのが表4です。

表4 新規購入の際に重視した選択基準(%)

 

ミニサイクル

軽快車

スポーツ車

実用車

 

軽くて乗り易い

85.6

81.9

78.7

75.8

 

84.0

82.2

丈夫で耐久性がある

76.5

79.3

65.3

85.0

 

81.3

71.3

サイズが体にあう

84.2

89.7

85.4

74.7

 

87.6

81.8

価格

81.0

84.5

70.6

71.2

 

77.2

73.8

自分の用途にあっている

81.1

76.7

74.7

78.2

 

81.5

78.4

デザインがよい

59.3

57.2

70.7

49.4

 

63.6

56.3

 女性が男性より特に重視した項目は「丈夫で耐久性がある」「デザイン」「サイズが体にあう」ことですが、これらに該当する車種はそれぞれ実用車、スポーツ車、軽快車であり、ミニサイクルを選ぶ判断基準としては決して高いものではありません。これらはサイクリングなどのレジャーで使用するための自転車選びに使われており、買物のための自転車選びとしては、毎日使うものであり、買物した荷物を載せるカゴの大きさなど「軽くて乗り易い」「自分の用途に合っている」からミニサイクルを主に選んだと見ることができます。
また、昭和50年代を通じて公共交通の料金が大幅アップ(図1)したことによる生活防衛という立場から自転車利用への移行も見逃せません。
 このように経済性と利便性の2つの面における利用目的がミニサイクルや軽快車といったママチャリに適していたといえます。

図1 昭和45年〜60年における公共交通料金の推移(縦軸:円)

[価格]
 昭和40年代における高度経済成長の進展に伴う消費者物価指数の上昇と共に自転車の消費者価格の指数も上昇を続けてきました。48年のオイルショックによる市場での急激な低迷にも関わらず、消費者物価指数はその後も上昇を続けていきました。このため原材料費の上昇とこれまでの販売増加による「絶対に売れる」という自信過剰から引き続き自転車の価格を引き上げたのですが、40年代の販売増加の反動とともに新規需要はすでに冷え切っていたのです。さらに自転車販売店とは異なるスーパー・ホームセンター等で自転車を客寄せの目玉商品として売り出したのです。
 日本における本格的なホームセンターは昭和47年に誕生しましたが、その後急激に店舗数を増やし、合わせて自転車の販売にも力を入れ始めました。昭和61年における1066店舗の調査によるとその91%が自転車販売を行っており、55年までに販売を行っていたのが調査店舗の29%、56年〜59年の4年間の間に販売を始めたのが48%でした。1店舗におけるミニサイクルと軽快車の陳列台数は子ども車・幼児車も含めた全車種の陳列台数の47%で、大人向け用自転車の大半を占めているといえます。
 各車種別の自転車店以外から入手した割合を昭和50年における国内出荷台数の推定、53年における販売構成比、56年における利用者アンケート結果から示したのが表5です。調査方法は異なるものの、いずれもミニサイクルをスーパー・ホームセンター等で入手した割合が他の車種よりも高いことがわかります。

表5 車種別入手先の割合(%)

 

ミニサイクル

軽快車

スポーツ車

実用車

?

50年

53年

56年

50年

53年

56年

50年

53年

56年

50年

53年

56年

自転車店

68.8

31.4

66.5

84.4

48.5

63.2

91.5

39.7

68.1

97.1

54

71.2

スーパー・ホームセンター・百貨店

31.2

68.6

21.4

15.6

51.5

19.6

8.5

60.3

14.3

2.9

46

16.8

もらった

 

 

9.5

 

 

11.5

 

 

17.6

 

 

12.2

その他

 

 

2.6

 

 

5.7

 

 

0

 

 

0

 こうしたことを反映して、昭和50年〜60年代における車種別の出荷時の価格(出荷高金額÷出荷高台数)は図2の通りで、軽快車が19000円前後、スポーツ車が20000〜22000円に対してミニサイクルが15000円前後と低価格になっています。

図2 昭和50〜60年代における出荷時における車種別価格の推移(縦軸:円)

 しかも、スポーツ車が56年以降上昇を続けていくのに対して、ほぼ一定水準で推移していたミニサイクルと軽快車は59年以降下降を続けています。この影響によって自転車の消費者価格指数は昭和30年代と同じく49年から63年まで変わらない状況が続くことになりました(図3)。

図3 昭和47年から63年までの自転車消費者価格指数と全国消費者物価指数の推移 (縦軸:昭和50年を100とした指数)

 このことは1世帯あたり年平均1ヶ月間の消費支出金額からも同様のことがわかります(表6)。昭和63年の消費支出金額は昭和45年の3.7倍まで増加しているのに対して、自転車購入のための金額は45年の86円に対して63年は330円と3.8倍になっていますが、消費支出金額に対する自転車購入金額の割合は19年間ほぼ0.1%で変わりません。
 一方で経済企画庁調査局の「消費者動向予測調査」によると、昭和51年2月現在、自転車を保有する世帯は全世帯の78.1%で100世帯あたり132.9台が保有されています。同様に昭和56年の自転車産業振興協会の調査では保有世帯は全世帯の81%、2台以上保有世帯は全世帯の53.2%、全世帯平均1.7台、保有世帯平均2.2台です。これは電気洗濯機などの家庭電化製品とともに高い保有率です。一般的に耐久消費財は普及率の高さとともに新規販売量に伸び悩む傾向があり、これに対応するために価格の相対的な低下とともに商品寿命を短くする戦略も一部に考えられました。

表6 昭和50年〜63年における1世帯あたり年平均1ヶ月間の消費支出金額及び自転車に関する支出金額の推移(全国5万人以上の市の全世帯)

 

昭和45年

昭和46年

昭和47年

昭和48年

昭和49年

昭和50年

昭和51年

自転車に関する支出金額(円)

86

123

141

203

208

210

212

消費支出(円)

79531

87475

96026

112116

136024

157982

174790

消費支出における支出金額の割合(%)

0.11

0.14

0.15

0.18

0.15

0.13

0.12

エンゲル係数(%)

34

33

33

32

33

32

32

 

昭和52年

昭和53年

昭和54年

昭和55年

昭和56年

昭和57年

自転車に関する支出金額(円)

243

219

237

256

237

263

消費支出(円)

190497

201715

214697

230568

240014

253169

消費支出における支出金額の割合(%)

0.13

0.11

0.11

0.11

0.1

0.1

エンゲル係数(%)

31

30

29

29

29

28

 

昭和58年

昭和59年

昭和60年

昭和61年

昭和62年

昭和63年

自転車に関する支出金額(円)

276

288

263

294

335

330

消費支出(円)

259521

266319

273114

276374

280944

291122

消費支出における支出金額の割合(%)

0.11

0.11

0.1

0.11

0.12

0.11

エンゲル係数(%)

28

27

27

27

26

26

[生産台数の推移]
昭和50年から63年までの間における車種別生産台数の推移(図3)を見てみると、ミニサイクルは昭和48年の280万台をピークにオイルショックの影響で下降線をたどり、50年から53年まで200万台で横ばいを示していました。しかし、54年からミニサイクルだけが再び増加に転じ、58年にはこれまでの最高となる293万台まで達しました。

図3 昭和50〜60年代における車種別生産台数の推移

 昭和56年における購入形態はいずれの車種も新規より買い替えが上回っています(表6)が、2台目以上の買い増しを加えるとミニサイクルだけが買い換えを新規が上回っています。ミニサイクルの低価格(図2)がこの新規購入力を高め、その結果として54年以降58年までの生産台数の増加を支えているともいえます。

表6 昭和56年における車種別購入形態

購入形態%

ミニサイクル

軽快車

スポーツ車

実用車

新規

40.2

36.8

27.5

30.3

買い増し

15.1

9.2

14.3

11.1

買い替え

43.7

52.9

57.1

56.6

[軽快車の2極化]
ミニサイクルが昭和40〜50年代を通じてほぼ順調に生産台数を伸ばしていった結果、59年には保有台数が1800万台(図1)に達した一方で、世帯普及率は57年から46%で停滞状態が続くようになりました。こうした状況により58年から生産台数が減少状態になり、それに代わって軽快車が急激に生産台数を伸ばしていきました(図3)。
従来の買物、通勤・通学という実用的需要に加えて、生活を豊かにする新たな価値を求める需要が現れ始めたのです。良品質ながら低価格の自転車と高付加価値を付けた自転車という軽
快車の2極化、すなわちママチャリ・非ママチャリです。    
ここでの高付加価値とはファッション性・アクティブ性・遊び感覚などです。ファッション性とは斬新なデザイン・美しいデザインと流行の色彩感覚をベースにしたカラーバリエーションを持たせる仕法であり、アクティブ性とはスポーツ車感覚のシンプルなデザインやパーツの装着をする仕法であり、遊び感覚とは注目性・流行性を起こりやすくする仕法です。このため、車種も急激に増加し、例えばナショナル自転車のカタログを調べると車種数は次のようになっています。
昭和40年代前半:83種  昭和50年代:90種  昭和50年代後半:208種  

図4 昭和50年代におけるミニサイクルの保有台数の推移

 このような高付加価値の付いた自転車が登場した背景としては、@人口構成比の変化 A週休二日制の拡がりによる余暇時間の増大 B消費支出金額の増加 C社会環境の変化などがあげられます。
  @人口構成比の変化
昭和50年代に入り、20代が減少していくのに対してその他の年代は増加傾向を示し、特に50代が著しい増加を示しています(図5)。
10代後半の世代は昭和40年頃から急増した幼児・子ども用自転車を利用していた層で、これまで利用していた自転車とは異なる付加価値のついた自転車、特にスポーツ感覚が持てるタイプを求めるようになってきました。
唯一減少しているのが20代ですが、その中でも特に女性はおしゃれ感覚にマッチしたファッション性のある自転車を求めるようになり、ファッション誌とのコラボレーションで新しい暮らしの提案として非ママチャリの軽快車を紹介することなども盛んに行われるようになりました。
一時期自転車から離れていた30〜40代の層もファミリーで自転車を楽しんだり、健康を目的として見るスポーツから行うスポーツとして、本格的なスポーツ車ではないがスポーツ車感覚が味わえる自転車を求めるようになりました。
最も増加している50代はこれまで自転車を利用していなかった女性を中心に新たな自転車利用層として、買物のためのママチャリ派と健康のための非ママチャリ派が生じてきた世代でもあります。
図5 昭和47年から63年までの世代別人口の推移(単位:十万人)

 A週休二日制の拡がり
日本では昭和50年代半ばから何らかの形による週休二日制導入が始まり(表7)、これによる余暇時間も拡大していきました。ゆとりが生まれ、既成概念という枠をはずして自分自身のための時間・生活を楽しみたいという意識の変化によって自転車利用者の拡大とニーズの多様化が生じました。

表7 週休二日制の広がりの推移

 

 

昭和50年

昭和60年

平成3年

平成4年

平成5年

企業数割合%

完全週休2日制

4.6

6.1

14.5

19.5

20.3

 

何らかの週休2日制

43.4

49.1

78.2

85.2

87.0

適用労働者数割合%

完全週休2日制

21.4

27.1

45.9

51.3

52.9

何らかの週休2日制

69.9

76.5

91.6

94.2

95.2

 

 

平成6年

平成7年

平成8年

平成9年

企業数割合%

完全週休2日制

24.3

26.0

28.5

33.6

 

何らかの週休2日制

88.6

90.3

91.2

90.0

適用労働者数割合%

完全週休2日制

53.9

57.8

59.3

60.9

何らかの週休2日制

95.4

96.2

96.5

96.4

 B消費支出金額の増加
1世帯あたり年平均1ヶ月間の消費支出金額は昭和50年の157982円から昭和63年
には約2倍291122円まで増加し、エンゲル係数も32から26まで下がり(前号の表6)、高付加価値の付いた自転車が購入しやすい状況になりました。
 C社会環境の変化
オイルショック以来の省エネルギー社会への移行により自転車への期待度が高まり、情報化社会の芽生えにより高品質の自転車を厳しく品選びする消費者の増加する傾向が現れ始めました。
昭和60年のナショナル自転車のカタログを見ると、高付加価値を付けた自転車をシティサイクルと呼び、買物、通勤・通学という実用的自転車をホームサイクルと呼んで区別しています。
シティサイクルは6車種で平均価格は41460円です。(以下原文のまま)

[遊び感覚] カマキリ 定価38800円(26インチ)
大きさの種類 26・24・20
スタイルやさしいおしゃれなカマキリ。
子どもから大人までいろんなカップルで楽しめます。

[スポーツ車感覚] ポタリアン 定価47800円(26インチ)
大きさの種類 26
週末は自分だけの自転車でヘルシィな風の音を聞いてみませんか。
りやすい設計のアダルト用スポーツ車タイプ。
5段外装付

[ファッション性] アンジェ  定価39800円(24インチ)
大きさの種類 24
自転車全体を真綿のようなフロッシーカラーでまとめました。
フレッシュなイメージのニューファッションサイクル。
お気に入りのカラーを見つけてください。

 ホームサイクルは7車種で平均価格33940円、シティサイクルとは約7500円の価格差があります。

チェリオ  定価28800円(24インチ)
大きさの種類 24・22
価格を重視したお求めやすいミニサイクル。
デザイン・カラーともに落ち着いた雰囲気でまとめました。

フロリダ  定価32800円(24インチ) 26・24・22
フロリダの太陽のように、明るく爽やかなデザインの自転車。
選んで楽しい5色のフロリダ。

カーニバル  定価29800円(24インチ)
大きさの種類 24・22・20
底抜けに明るいイメージのカーニバル。
色いろいろ楽しく選ぶカーニバル。

 このようにデザイン性・機能性の違いが価格の違いとして現れ始め、この2極化から平成時代に入ると、ママチャリがさらなる実用的需要と低価格化へ進んでいきます。

[年代別利用車種]
 ミニサイクルの利用者を年代別に見てみると最も多いのは常に20代ですが、昭和52年から10代後半と30代との差が縮まり、56年以降は30代までは年代別の差がほとんどなくなりました(図6)。軽快車の利用層は昭和40年代に引き続き30代が中心でしたが、54年以降利用率が低下し、60年以降は10代後半が中心になってきました(図7)。この10代後半の利用の増加が車種別生産台数における60年代の急激な増加(図3)を支えたことになります。

図6 昭和50年から63年までのミニサイクル利用者の年代別割合

 図7 昭和50年から63年までの女性用軽快車利用者の年代別割合
(図6・図7は年度毎に各年代の利用者割合の合計が100%)

[放置自転車問題の発生とその対策の効果]
 昭和40年代を通じて軽快車やミニサイクルの増加は誰でも気楽に乗れ、買物や通勤通学などの日常生活に欠かせない存在になってきたことを示していますが、結果として急激な生産台数の 増加に駐輪場の設置が追いつかなくなっていました。さらに、価格の相対的な低下により自転車は消耗品扱いとなり、駅前の放置自転車問題へとつながっていくことになったのです。

図8 昭和49年から63年までの東京都における自転車保有台数の推移(単位:万台)

図9 昭和49年から63年までの東京都における駐輪場収容台数と放置自転車台数の推移(単位:千台)

 この対策として昭和55年に「自転車の安全利用の促進及び自転車等の駐車対策の総合的推進に関する法律」が制定され、これに基づいて逐次地方公共団体が駐輪場の確保と放置自転車規制の条例制定を進めました。東京都内を例にして見てみると、自転車の保有台数は昭和49年から58年までの10年間で約2倍になりましたが、駐輪場収容台数もそれに合わせて急ピッチで設置が行われ、同年間に約8倍となった結果、放置自転車の台数も55年以降はほぼ20万台で増加傾向が止まりました(図8、9)。平成に入ってかも駐輪場の設置が引き続き行われ、放置自転車の台数も減少に向かいました。

[自転車による交通事故問題の発生]
 昭和45年に道路交通法が改正され、二輪の自転車は「自転車および歩行者専用の道路標識」が設置してある歩道を通行してもよいことになり、自転車の歩道通行が初めて認められました。
 当時の自転車保有台数は現在の3分の1の2929万台、自動車保有台数は現在の5分の1の1653万台にも関わらず交通事故による死者は史上最多の1万6765人(平成21年は4914人)で、そのうち自転車乗車中の死者は11.6%の1940名でした。このため、自転車の歩道走行は自転車と自動車の分離を行う緊急対策だったといえます。
 昭和53年には45年当時に対して自転車1.6倍、自動車は2倍まで増加を続けましたが、交通事故件数は36%、全体の死者は46%、自転車乗車中の死者は43%の大幅な減少となりました。しかし、交通事故全体の死者に対する自転車乗車中の死者の割合は12.7%に増加し、同様に全体の負傷者に対する自転車乗車中の負傷者の割合は13.8%になっていました。こうした背景からこの年に自転車の歩道通行に関する道路交通法の改正が行われ、歩道通行できる自転車を二輪だけではなく三輪まで広げて車体の大きさで制限し、歩道での通行方法を具体的に規定することになりました。これ以降の昭和63年までの歩道内における自転車と歩行者の事故件数の数字はなく、自転車による歩行者への妨害件数(表8)があるだけです。

表8 自転車乗用者による歩行者妨害等の件数

55年

56年

57年

58年

59年

60年

61年

62年

63年

42

30

30

35

30

42

48

54

40

 自転車の歩道走行が可能となった状況の下、昭和50年から63年までの交通事故全体の件数の推移を見てみると、60年から急増しているものの、50年代はほぼ横ばいでした(図10)。また自転車乗車中の死者数は減少傾向にあるにも関わらず、負傷者数は50年代60年代を通じて増加を続けています(図11 図12。

図10 昭和50年から63年までの交通事故全体の件数の推移(単位:万件)

 

 図11 自転車乗用中における死者数の推移     図12 自転車乗用中における負傷者数の推移
(単位:人)                  (単位:千人)

これを年代別に見てみると、昭和50年代では20代は横ばい、30代は弱冠の減少に対して40代以降は増加を続けています(図13)。これを自転車統計要覧の中の車種別年代別販売比率を利用して車種別出荷台数を推測したものと比較してみたのが図13です。概ね負傷者数と軽快車+ミニサイクルの出荷台数の推移とが同じ傾向にあることが分かります。

16〜20才

21〜30才
31〜40才
41〜50才

51〜60才

61才〜

図13 年代別軽快車+ミニサイクル出荷台数(単位:千台)と自転車乗用中における負傷者数(単位:千人)の推移の比較

 これから昭和50年代において、40代以降が30代以下よりも負傷者の数が増加が続いていることが、年令による体力的なことだけに原因を求めるのではなく、こうした年代の人たちが乗り易い自転車の開発と利用率の増加にも一因があると考えられます。

[参考文献]
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2)昭和44年自転車国内販売動向調査年間総括 自転車産業振興協会 1970年
3)昭和47年自転車国内販売動向調査年間総括 自転車産業振興協会 1973年
4)昭和52年自転車国内販売動向調査年間総括 自転車産業振興協会 1978年
5)内外自転車情報第46号 日本自転車産業協会 1964年
6)自転車の需要予測調査報告書 自転車産業振興協会 1969年
7)自転車化社会に関する調査研究報告書 自転車産業振興協会 1976年
8)日米富士自転車カタログ各種 日米富士自転車
9)ブリヂストン自転車カタログ各種 ブリヂストンサイクル工業
10)宮田自転車カタログ各種 宮田工業
11)ナショナル自転車各種カタログ 松下電器産業
12)片倉自転車各種カタログ 片倉自転車
13)ナショナル輪栄 松下電器産業 1965年〜1975年
14)調布市・三鷹市・川口市・相模原市各市役所ホームページ
15)日本住宅公団史 日本住宅公団 1981年
16)東京都における駅前放置自転車対策 資料編  東京都生活文化局総務部交通安全対策室  1985年
17)ナショナル輪栄 松下電器産業 1975年〜1988年
18)自転車統計要覧 自転車産業振興協会 1975年〜1989年
19)富士自転車各種カタログ 日米富士自転車
20)わが国の人口推計 総務省統計局・政策統括官・統計研修所ホームページ
21) 労働省 平成9年賃金労働時間制度等総合調査結果速報
22)1世帯あたり年平均1ヶ月間の消費支出(全国5万人以上の市の全世帯)総務省統計局・政策統括官・統計研修所統計データより
23)自転車事故統計 自転車産業振興協会 1981年〜1991年
24)改正道路交通法の早わかり 警察庁交通局監修 全日本交通安全協会 1978年
25)交通事故統計年報 平成6年版 交通事故総合分析センター 1995年

         
谷田貝一男
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