資料から知る自転車の歴史 6

                 自転車の前カゴの歴史          谷田貝一男

資料
昭和初期の雑誌広告
昭和25年頃 前荷台自転車「ナトリ号」
昭和30年代中頃に撮影された自転車が写っている写真多数
昭和32年 自転車潜在需要調査報告
昭和30~40年代の前カゴ及び前カゴ用バッグ
昭和10年~昭和40年代の製造会社カタログ各種

シティサイクルに欠かせない装備品の一つに前カゴがあります。この前カゴが使われ始めたのは昭和20年代の後半ではないかと考えられます。カタログのページをめくっていくと、昭和28年に山口自転車と月星の子ども用自転車に初めて前カゴが付けられたものが見つかりました。
(図1)

山口自転車
月星子ども用自転車
図1 昭和28年に発売された前カゴ付自転車(JAPAN’S BICYCLE GUIDE 1953および1954より)

 山口自転車は前輪の泥よけの上にキャリヤ(金属棒で作った架台)を設置し、その上にカゴを置いているように見えます。一方月星の子ども用自転車にはキャリヤがなく、カゴの両脇にあるフックをハンドルに引っ掛け、ランプ掛けで留めています。
 前輪の泥よけの上にキャリヤを取り付ける方法は昭和初期に登場しました。それまでは足利市の酒井次郎吉によってわが国で始めて製造された前荷台式三輪車が荷物運搬用として用いられていましたが、大正6年頃から中村銀輪社によってリヤカーの生産が始まると、前荷台式三輪車はその役割りを失いました。しかし、リヤカーを利用するほどの荷物の量でないときは後輪の荷台を使うことになりますが、荷物が重いと前輪が浮いてしまいますので、前輪にも荷物を置くと自転車全体のバランスがとれるために、キャリヤを取り付けた前荷台式の自転車(図2・3)が登場したと考えられます。
 この前荷台に直接荷物を置いて運転していましたが、カゴを置くことはヨーロッパでは1920年代にはありましたが、日本では昭和28年までありませんでした。  

図2 自転車広場で展示してある前荷台式自転車

図3 キャリアステー(取り付け支持棒)を前輪の車軸と結ぶ現在の カゴの設置方法同じ  左の前荷台は荷物の重さに応じて3段階に折りたたむことがで
きた

(昭和6年 六大都市製造卸商名鑑より)

 昭和20年代後半における輸出台数の低下とモータリゼーションの波が自転車製造各社に危機感をもたらせ、従来の荷物輸送のための実用車一辺倒の脱却を目指しました。昭和31年における女性の自転車に乗れる割合は20代までは50%を超えていますが、30代以降で急激に低
下しています。男性が40代まで90%を超え、50代以降でも80%近くになっているのと大きな違いがあり(表1)、自転車に乗れる女性の実際に利用する割合も男性の3分の1に過ぎませんでした。したがって女性でも乗ることのできる男女共用車の販売台数も全体の14%でしかなかったのです。つまり、20代30代の女性の乗車率をアップさせることで、新たな開拓を行おうとし、昭和31年頃から各社が相次いで女性向けの新機種を発表しました。

表1  昭和31年における男女の年代別自転車に乗ることの出来る人の割合(%)

 
10代
20代
30代
40代
50代
女性
75.5
61.2
41.6
18.2
6.7
男性
96.6
96.9
95.5
95.1
78.9

 発表された各社の女性向けの自転車を見てみると、前カゴが付けられていたのは前出の山口自転車(図4)だけで、それも取り外しが可能なものでした。
 女性向けの自転車が登場すると、買い物に行くために自転車を使うという従来の商用のための自転車利用とは異なる形態が現れてきました。そこで買った品物を入れるためのカゴが自転車に取り付けられるようになってきました。     

図4 山口自転車が昭和31年に発売したスマートレディ

 しかし、昭和30年代の女性用自転車にはあらかじめ前カゴが設置されて販売された自転車と前カゴなしで販売された自転車がありました。あらかじめ設置されて販売された際の設置方法は車体に取り付けたキャリヤにビニールバッグやビニールの網カゴを装着するものでした(表2)。

表2 前カゴを設置して販売したときの設置方法(昭和35年まで)
車名
取り付け方法
カゴの種類
取り外し
31年
山口スマートレディ
キャリヤなしハンドル直接付 ビニール網カゴ 可(手提げ有)
33年
日米富士フラウ
キャリヤにバッグを装着 ビニールバッグ 可(手提げ有)
33年
ナショナルビューティ キャリヤに網カゴを装着 ビニール網カゴ 可(手提げ有)
34年
ナショナル国民号 キャリヤに網カゴを装着 ビニール網カゴ 可(手提げ有)
35年
日米富士マミー キャリヤに網カゴを装着 ビニール網カゴ 可(手提げ有)

そのときの前カゴの利便性をアピールするキャッチコピーは次の通りでした。
 ◎昭和31年 スマートレディー 山口自転車(図4)

  お買物には取りはずしが簡単で御便利な美しい手堤籠がハンドルについています
 ◎昭和33年 富士フラウ 日米富士自転車(図5)
  奥様方へお贈りする新しい感覚と斬新な アイデアと色彩を選んで・・・
時代に先行した生々しい今日の話題
図5 日米富士自転車が昭和33年に発売した富士フラウ号
 ◎昭和33年 ナショナルビューティ

荷台がフレームに固定されているため、 ハンドルを切っても買い物カゴが動かず 重心も移動しないので、7.5kgの荷物 をつけてもハンドル操作が普通の自転車の60%も軽い

 各社が前カゴを設置した女性用自転車の販売を始めると、前カゴが設置されていない自転車のためにオプションで前カゴを取り付ける人が多くなってきました(図6)。

 

両側のフックをハンドルに、中央の金属をランプ掛けに差し込む

取り外しができない

 

取り外して手提げの買い物カゴとなる引っ掛け用の穴が両側に付いている

取り外しができる

 

図6 オプション用前カゴのいろいろなタイプ

昭和34年~36年に撮影された写真に写っている自転車693台の前カゴの設置状況を調べてみると次の結果が得られました。

ダイヤモンド形(主として男性向けの自転車)
370台 前カゴ付 0台
スタッガード形・ループ形他(女性向けであるが男女兼用でもある自転車)
323台 前カゴ付78台

設置率は全体で11%、男女兼用で24%に過ぎません。また、設置されたカゴのうち取りはずしができないものは1台で、77台は取りはずしが可能で、その多くは後から取り付けたものと考えられます。このように、オプション式でもさまざまなタイプがありました。
 ①カゴを取り外すか据付かによる違い
    @取り外さない
    @取り外しを行い、買い物カゴとしても使う(手提げ部分が付いている)
 ②取り付け方法による違い
    @ハンドルに引っ掛け、ランプ掛けで留める
       カゴは取り外せない  ライトはハンドルの中央部かカゴの前に付ける   
    @カゴ枠を車体部分に取り付け、その中にバッグやカゴを入れる
        バッグやカゴはハンドルにベルトで留める
       バッグやカゴは取り外せる
     @キャリアにバックやカゴを付ける
       ハンドルにバッグやカゴを留めるバネを付ける
       バッグやカゴは取り外せる
     @枠=前カゴ
       枠にバックやカゴを入れない 現在の前カゴの利用方法と同じ

  両側のフックをハンドルに、中央部裏側でランプ掛けに留める   カゴ枠の中に網カゴを入れる   キャリアにカゴを取り付け、ハンドルに付いているバネでカゴを留める  
図7 前カゴの取り付け方法

また、前カゴのない自転車を利用して買い物に行く場合は、ハンドルにバッグやカゴをぶら下げて行きました(図8)。

図8 前カゴがないとき
 女性用自転車に前カゴを取り付けて利用する人が多くなってきた昭和30年代後半になると、各社はキャリアに取りはずしができるバッグや網カゴを取り付ける方法から、金属棒でカゴ枠を作り、その中にバッグ(図9)を入れる方法を取り入れるようになってきました(表3)。カゴ枠は現在の前カゴの設置方法と同じで、ヘッドラグ(ハンドル下から泥よけの上の部分までの車体部分)で留め、キャリヤステー(取り付け支持棒)を前輪の車軸に取り付けています。
表3 前カゴを設置して販売したときの設置方法(昭和36年~39年まで)
車名
取り付け方法
カゴの種類
取り外し
36年 ナショナルビューティ カゴ枠にバッグを入れる ビニールバッグ 可(手提げ有)
37年 日米富士ハイレディ カゴ枠にバッグを入れる ビニール網カゴ 可(手提げ有)
37年 丸石サンデー キャリヤにバッグを装着 ビニールバッグ 可(手提げ有)
38年 川村フラワーレディ号 カゴ枠にバッグを入れる ビニールバッグ 可(手提げ有)
39年 ナショナルビューティ カゴ枠を直接装着
 
丸石のバッグ  正面両側にカゴ枠取り付用フックがある   ミニサイクル用バッグ 両脇にカゴ枠取り付用フックがある 
図9 カゴ枠の中に入れるビニールバッグ(昭和30年代後半~40年代前半)

 昭和39年、カゴ枠にバッグを入れない現在と同じ使い方のタイプが登場しましたが、枠の取り付け方法は現在とは異なり、キャリヤステー(取り付け支持棒)をヘッドラグ(ハンドル下から泥よけの上の部分までの車体部分)とダウンチューブ(泥よけの上からペダルまでを結ぶ車体部分)に装着しています(図10)。

   ◎昭和39年 ナショナルビューティ
       金属製のカゴで中にバックを入れるタイプではない

     

 バスケットはフレームにピタリと固定  
 今までのイヤなブレやフラつきを解消  ハンドルさばきはグンとさわやか

ダウンチューブとヘッドラグからキャリヤステーが出ている

図10 昭和39年に発売されたナショナルビューティ

 昭和40年代になると、ミニサイクルが登場することで、前カゴの設置が標準化されていきました。そして、カゴ枠の中にビニールバッグを入れる方式からカゴ枠のみの現在と同じ取り付け方法・使用方法の前カゴが昭和44年~45年に登場しました(図11)(図12)。

   ◎昭和43年 ナショナルビューティはなたば

 ハンドルの前に、カバンや荷物がラクラクに積みこめるバスケットを採用 
 しかも、バスケットは取りはずしができて、お買物に便利なショッピングバッグが ついています

 

図11 ナショナル自転車が昭和43年に発売したナショナルビューティはなたばB-73B  ハンドル下と前輪の車軸から伸びたキャリヤステーでカゴ枠を支えている

 

図12 昭和45年に発売されたナショナルビューティB-13B(P) 前カゴの取り付け方法・使用方法が現在と同じ

(参考文献)
JAPAN`S BICYCLE GUIDE 1953 1954 昭和28年29年 日本自転車工業会
六大都市製造卸商名鑑 昭和6年 日本輪界新聞社
山口自転車 カタログ 昭和31年 山口自転車販売
自転車潜在需要調査報告書 昭和32年 日本自転車産業協議会
富士自轉車 カタログ&引き札 昭和33年・35年・37年 日米富士自轉車
サイクル 昭和33年・34年 サイクル時報社
旅とサイクリスト 昭和38年 大阪サイクリング協会
ナショナル輪栄 昭和39年~45年 松下電器産業
オプション用の前カゴ並びにビニールバッグは狛江市の谷田部克己氏より寄贈されたものです。

                                     (自転車文化センター 学芸員)