資料から知る自転車の歴史 7

          大正時代のニセブランド自転車        谷田貝一男

                資料
大正時代 自転車メーカー及び卸商各社のカタログ
トライアンフ自転車・トライアンフのコピー自転車
ラレー自転車

 明治30年代から40年代にかけて、自転車や部品の国内製造が相次いで始まる一方、アメリカ、イギリスからの輸入が明治40年をピークに減少していきました。特に大正3年に勃発した第1次世界大戦の影響で、イギリスなどの交戦国からの輸入がほとんど途絶えたにも関わらず、国内生産の増大で、大正2年からの4年間で自転車保有台数は2倍の100万台を超えるまでになりました。これは国産車の価格が輸入車の3分の1から3分の2くらいという安さが普及に大きな貢献を果たす結果となりました。
 しかし、高価格の輸入車はブランドとしての名声があるため、そのニセブランド自転車いわゆるコピー商品が多く出回っていました。当時も、登録商標や特許制度はあったものの、その情報伝達の範囲、スピードは現代とは比較にならないほど小さいものであったため、その意識も低く結果的にコピー商品がはびこることになりました。

 

【トライアンフ】
 トライアンフ自転車製造会社は1887年、イギリスのコンベトリー市に設立されました。イギリスだけに留まらず、ヨーロッパ各国をはじめアメリカ、南米、オーストラリア、インドなど世界各地に輸出されていました。日本には明治44年、丸石商会を代理店として輸入が開始され、その後丸石商会の看板自転車となりました。このため、輸入自転車を模した国産自転車の中でも最も多くのコピー商品が「トライアンフ」で、その名称も「トライアンプ」「トライアンプ形」「トライアンプ式」「トラ形」と変えて出回りました。
 大正13年の卸商のカタログに「最高級形トライアンプ 最高級組立車」「本車は御販売の都合上車名は発表致しません」と書かれた自転車が掲載されています。小売店が卸商から購入してその店独自の車名をつけてあたかも海外ブランド自転車であるかのように思わせて販売するしくみです。下表の価格は卸値ですが、小売値は本物の半分以下ではなかったかと思われます。

 
コピーの自転車「トライアンプ」
 
本物の自転車「トライアンフ」
 
 

日直商会  日直商報 大正13年10月号より

 

丸石商会 TRIUMPH CYCLE   1927 MODEL.Sより

 
 
 
 
 
価格

70円(前後ブレーキ付)(卸値) 
74円(コースターブレーキ付)  

車体 トライアンプ形黒無地仕上げ
泥除け 丸形トライアンプ形最上
リム 加賀新家リム
ハブ 舶来ブランド寸長
タイヤ ノースタータイヤ付
ブレーキ ボーデン舶来最上等
サドル ブルックス75号
ハンドル ラニング最上等銅下付巾広
ペダル ブラントンペダル
 
価格

320円(前後ブレーキ付)(小売値)
330円(コースターブレーキ付)

車体 21吋 漆黒色
泥除け ヘギザゴン鋼鉄前突出式
リム 28吋8分の3
ハブ

トライアンフ専用デスクアツヂアスティ
ング

タイヤ ハーメ斜子引掛式
ブレーキ トライアンフ前後外ブレーキ
サドル ブルークス第28号
ハンドル トライアンフ第1号上向式
ペダル イムペリアル6ツゴム式
 

 値段が安いのは材質、製造方法の他、使用されている部品にもコピー商品が使われていることによります。本物のトライアンフはイギリスのブルックス社製のサドルを使用していますが、コピー車もブルックスを使用していると書いてあります。ところが、ブルックスサドルもコピー商品が出回っていました。本物が8円20銭のところ、コピー商品は1円25銭という低価格のものもありました。

 
 
丸石月報大正11年6月号
 
丸石月報大正11年6月号
  トクナミタイムス大正15年7月号
                77ブルックスサドルの値段

 本物のブルックス77(上左)         
コピーの第77号ブルックス型エムサドル(上右)
コピーの特製ブルックス形77サドル (左)  
コピーの上製ブルックス形77サドル (左)  
コピーの徳用ブルックス形77サドル (左)  

 8円20銭
3円50銭
1円85銭
1円45銭
1円25銭

また、本物のトライアンフは修理のための部品が1点1点用意されて、別
売りをしていました。右の写真がその一覧表で、高いものでは前ギヤク ランク付1組10円50銭、レバー付ハンドル1本10円、前フォーク1本9円80銭など、安いものでは泥除けねじ1個5銭、ランプブラケット1個50銭、ヘッドロックリング1個40銭などがあります。
トライアンフのコピー商品はこの他にもトライアンプ式ジミー号、ランニング号、ノースター号をはじめ、新式トラ形車体、第200号トライアンプ式、トライアンプ式巾広ハンドル、トライアンプ式高級フレームなど数多く売られていたことが当時のカタログからわかります。

丸石月報大正11年6月号

     
 

トライアンフのコピー車  羽車号 
昭和20年代(自転車文化センター所蔵)

 

前後ブレーキ付トライアンフ 
昭和6年頃 (自転車文化センター所蔵)

 
 

【ラレー】
 1870年代に香港で財を成したフランク・ボーデンがイギリスのノッティンガム市にあった
自転車工房を買い取って、1888年にラレー自転車会社を設立しました。8年後には16基のガスエンジンを動力とする世界最大規模の自転車工場を建設し、1904年にはモーターバイクの生産を始めるなど、急成長を遂げました。日本には丸石商会によってトライアンフと一緒に明治44年に輸入が始まりました。ラレーも「ラレー型」「ラレー式」と称してトライアンフ同様
自転車から様々な部品に至るまで数多くのコピー商品が作られていました。

 
コピー車の「ラレー式17号組上自転車」
 
本物の自転車「ラレー」
 
 

堀商報 大正12年11月号より

 

丸石月報 大正11年6月号より

 
 
 
 
 
価格

79円(前後ブレーキ付)(卸値)         87円(コースターブレーキ付)  

車体

純ラレー形 上エナメル黒塗 赤筋入
ラレー式特形ホーク付

泥除け 丸形上等
リム 上等メッキ付フ井アット印
ハブ フ井アット
タイヤ 堀式ダンロップ
ブレーキ シルバー上級品
サドル ニッケル3段バネ45号大形
ハンドル 乳首布巻銅下メッキ付上メッキ
ペダル 丸信形トラ式ゴム付
 
価格

 

車体  
泥除け  
リム  
ハブ

 

タイヤ  
ブレーキ  
サドル  
ハンドル  
ペダル  
 
使用されている部品にも「堀式ダンロップ」など、トライアンフ同様にコピー商品が使われています。

 

[1930年(昭和5年)頃のラレー自転車](自転車文化センター所蔵) 黒色に赤色のラインの塗装の他、ブルックスのB35サドルなどが発売当 時のものです。3スピードハブギヤが付いていますが後から付けられたも のです。明治末から大正にかけて、主にラレー社製は自動自転車とよばれたオートバイが輸入され、ツーリング車はめずらしいものです

     

【パーソン】
 明治14年に宮田製銃工場として発足した現在のミヤタ工業が明治36年、大阪で開催された第5回内国勧業博覧会に旭号を出品し、3等賞牌を授与されました。その実用向安価車がパーソン号でした。このパーソン号は明治44年に神戸電話局に、大正2年から昭和初期までは毎年3期に分けて当時の逓信省に納入されており、こうしたことが海外ブランド車同様の信頼を得たと考えられます。このため、「純宮田式パーソン同型サンエム号車体」「宮田第8号車体式 パーソン式ハブ」「パーソン式ハンガー」「パーソン式1号フレーム」「パーソン式ヘッド金具」「パーソン型厚生地極上塗」など数多くのコピー商品が売られていました。

 
コピー車の「宮田製パーソン同型」
 
コピー車の「パーソン式9号」
 
 

日直商会  日直商報 大正13年10月号より

 

丸石商会 TRIUMPH CYCLE   1927 MODEL.Sより

 
 
 
 
 
価格

75円(前後ブレーキ付)(卸値)
80円(コースターブレーキ付)   

車体 純パーソン型
泥除け レヂ形
リム 加賀リーム
ハブ エルマン細口ハブ
タイヤ 堀式ダンロップ
ブレーキ 宮田型スプリング式
サドル 舶来ブルックス77サドル
ハンドル 純宮田型ハンドル
ペダル エムエーペダル
 
価格

102円(前後ブレーキ付)(卸値)
110円(コースターブレーキ付)

車体 純パーソン型上等黒塗金線子持筋入
泥除け 上塗松葉足付
リム  
ハブ

フ井アット

タイヤ 堀式ダンロップ
ブレーキ 純パーソン式ヘール入
サドル ブルックス75型
ハンドル 純パーソン式乳首
ペダル 和トーリングゴム付
 

宮田パーソン号
320円(前後ブレーキ付)(小売値)
330円(コースターブレーキ付)

宮田工業百周年記念誌より

(参考文献)
日直商会 日直商報 大正13年10月号                丸石商会 TRIUMPH CYCLE 1927 MODEL.S
丸石月報大正11年6月号                                 トクナミタイムス大正15年7月号
堀商報大正12年11月号                                 安藤商会月報 大正12年7月
宮田工業百周年記念誌                                    宮田製作所70年史

                                  (自転車文化センター 学芸員)