ベルギーはエディ・メルクスやトム・ブーネン(現世界チャンピオン)で象徴されるように、自転車競技(特にロードレース)が盛んな国としてよく知られている。しかし、自転車集団登校を始めとする、都市部における自転車乗用促進運動も競技に負けず劣らず活発である。
 ベルギーの首都、ブリュッセルでは以前から自転車による集団登校が行われ、他のヨーロッパ諸国の模範とされている。2005年度を例にとると30の小学校で計250名の生徒が参加している。その中で最も盛んなのは、エベール町(ブリュッセルの郊外、北東約4kmに位置する)にある町立クレール・ビーブル小学校(M.ヤンセン校長)であろう。



エベール町にある町立クレール・ビーブル小学校正面


 

 同小学校には2才半から12才までの生徒、計897名が在籍している。フランスの教育学者であるフレイネ(FREINET、1896〜1966)式の教育を実践しており、「社会の一員として立派にやっていける」ことを目的としている。そのため、「自転車を通して社会人となることを学んでもらおう」と、自転車による通学を奨励している。

  クレール・ビーブル校の父兄会は生徒の通学手段に関するアンケートを実施したが、その結果は以下のとおりである(2005年9月14日付)。


自動車 46%
歩行 28%
バス・市電等公共機関 15%
自転車 11%
100%

自転車で登校する生徒は計99名であるが、その通学の仕方は以下のとおり。
     
大人と一緒に2人で来る 65名
自転車集団登校制度を利用する 29名
一人で来る 5名
99名

 クレール・ビーブル校で自転車集団登校を始めたキッカケは、それまでは父兄は近くの子供も一緒に自動車で学校に連れて行っていたが、それを自転車にも応用できないか、と考えたことであった。こうして、2000年の秋に父兄有志の提案により準備が始められた。この計画に対し、ベルギーの仏語圏(ベルギーの中南部、ワロンヌ地方)を代表する自転車乗用促進団体である、GRACQ(グラック、都市部における自転車乗用促進活動と調査グループ)とPRO VELO(プロ・ベロ)が協力してくれた。GRACQは1975年に創設され、現在1500名の会員を擁する。PRO VELOの目的はGRACQと変わらないが、調査や教育等各種活動を有料でおこなっている。現在40名の職員がおり、年間の売上高は100万ユーロ(1ユーロ=145円とすると1億4500万円)を誇っている。

 こうして自転車集団登校は翌年の3月から実施された。エベール町は集団登校専門要員を雇い、その要員用の機材(自転車)やウエアを用意するなどして協力を惜しまなかった。ブリュッセル市も参加生徒全員にヘルメットとシャジューブル(遠くからでも良く見える反射帯入りのチョッキ)を無料で提供してくれた。
参加生徒の父兄は誓約書に署名するが、それには以下の7条が明記されている。

第1条
父兄は参加生徒の安全と自転車集団登校制度確立のために、以下の規則を遵守する。
第2条
時間の厳守。遅れて来た生徒は待たない。
第3条
もし、生徒が参加しない場合には、すぐにコース責任者に連絡する。
第4条
生徒に目立つ色の服を着せる。シャジューブルか左腕に反射材の入った腕章をつけさせる。ヘルメットは義務づけられていないが、出来るだけかぶるようにする。
第5条
生徒は整備された自転車に乗ること。道交法に合った各種装置(ランプ、ベル等)が装着されていること。家族用賠償責任保険に加入していること。
第6条
コース責任者は安全の確保のためにグループを統率する。又、父兄との連絡役を務める。
第7条
生徒は誓約書により、「整備された自転車を使用し、安全な乗り方を心がける」ことを誓う。

 自転車集団登校への参加は無料であるが、上記第7条にあるように生徒は「整備された自転車を使用し、安全な乗り方を心がける」という誓約書に署名する必要がある。学校側は自転車で集団登校する生徒に対して保険をかけているが、第5条にあるように、父兄は更に家族用賠償責任保険に加入することが求められる。なお、参加生徒の父兄は少なくとも週に一回(行きか帰りのどちらか)は伴走しなければならない。

  現在6つのコースが用意されている。これらのコース上のすぐ近くに住んでいる生徒であれば、クレール・ビーブル校以外の生徒でも参加できる。集団登校は新学期の始まる9月1日から、夏休みの始まる直前まで(6月30日)ずっと運営されている。ただし、いくつかのコースは父兄の要望により冬の間は中止となる場合もある。

  今回は6コースある内の第1コース(エベール町の西部にあるストール広場からスタートし、同町中心部にあるクレール・ビーブル校まで)を実際に走ってみた。集合場所の広場には、生徒7、8名が既に集まっていた。大人は同コースの責任者であるアッペルバウムさん、エベール町から派遣された人、それにお母さんが一人の計3名であった。原則として生徒5、6名に付き、大人が最低一人付き添う必要があるとのことであった。クレール・ビーブル校の先生も時々参加するとのことであった。

  8時ピッタリにスタートした。先頭は町の派遣要員で、その後を生徒が一列で続き、最後に責任者が走った。付き添いのお母さんは生徒の列の左側(車道側)を走っていた。途中で一人の生徒がお母さんと合流したが、クレール・ビーブル校の手前にある別の小学校に行くとのことで、途中で別れた。「子供を絶対に一人にしない」のが鉄則とのことである。学校には8時15分に無事到着した。学校は8時半に始まるので、十分に間に合うように計算されていた。


自転車集団登校。大人に囲まれて走る生徒
自転車集団登校に参加したアッペルバウム氏の息子さん。ヘルメットとシャジューブルは必需品

子供2人と共に自転車集団登校に参加したお母さん

 ベルギーでは1971年以降、小中学校において交通安全教育を週に30分行うことが義務付けられている。ただ、その時間には道交法を学ぶとか、地元の警察署の見学等とかに使われる位でそれ程有効ではないといわれている。
  クレール・ビーブル校ではより積極的で、体育の時間にバルキエ先生の指導のもとに、クラス毎に自転車に乗って学校を出て、実際の交通状況下で自転車の安全な乗り方を学んでいる。更に、5年生(11才)のクラスを対象に、学科試験、実技、自転車に関する知識の試験を実施している。最後の試験として実際に公道を走り、合格者には「自転車免許証」を発行している。

 エベール町では警察も自転車の安全教育に熱心に取り組んでいる。去年(2005年)の秋に開かれた交通安全週間の期間中に、同町の町会議員であるラエッツ婦人の提案により、エベール町自転車安全教育コースを設置した。これは同町を一周する約10kmのコースで、途中に10個の掲示板を設置している。これらの掲示板により危険な個所や状況とその予防策を説明し、安全な走り方を実際に走りながら覚えることができるように工夫されている 。

エベール町自転車安全教育コースを、体育の先生に引率されて走る生徒

エベール町自転車安全教育コースの第1掲示板の前で、
お巡りさんの説明を聞く生徒


 エベール町の警察署(ゾーン5344と呼ばれ、エベール町と他の2つの町をカバーしている。全体の人口は16万人を数える)管内での交通事故による死者は4名(2004年度)であった。その内2名は自転車が関係し、1件は生コン車の横転事故、他の1件は交差点での信号無視(自転車に乗った子供が轢かれて死亡)によるものであった。2005年度は死亡事故ゼロ、とのことであった。なお、アッペルバウムさんによると、自転車集団登校時には、転倒等による軽傷等はあるにしても、いわゆる事故の部類は皆無とのことであった。

 このように、クレール・ビーブル校の自転車集団登校は、同校の父兄会を中心に、学校(先生)、エベール町、ブリュッセル市(交通局)、自転車関係団体(GRACQとPRO VELO)、警察が一体となって協力しているからこそ、成り立っているといえよう。クレール・ビーブル校の父兄会は、自転車集団登校を通して自転車の普及に貢献したということで、2004年5月にブリュッセル市より「ゴールデンハンドル賞」を贈られている。

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